経営支援メニューの全体マップ
まず、税理士が提供できる経営支援メニューの全体像を整理しましょう。大きく6つのカテゴリに分かれます。
| メニュー | 概要 | 月額目安 | 難易度 |
|---|---|---|---|
| MAS監査 | 月次の経営数値レビュー、KPI管理、アクションプラン策定 | 月3万〜10万円 | 中 |
| 事業承継支援 | 株価評価、移転計画、後継者育成支援 | 月3万〜5万円+スポット | 高 |
| 経営計画策定 | 中期経営計画の作成、金融機関対応 | スポット20万〜40万円 | 中 |
| 資金調達支援 | 融資申請サポート、事業計画書作成 | スポット10万〜30万円 | 低〜中 |
| 人事制度構築 | 賃金制度・評価制度の設計 | スポット50万〜100万円 | 高 |
| 保険提案 | 法人保険を活用したリスク管理・節税 | 手数料収入 | 低 |
6つのメニューすべてを同時に始めるのは不可能です。では、どこから手をつけるか。それを決めるために、2つの軸で考えます。「事務所の特性」と「顧問先の特性」です。
事務所の規模別:おすすめの始め方
1人事務所(所長1人、パート数名)
1人事務所の最大の制約は「時間」です。税務の仕事をしながら、新しいサービスに使える時間は限られています。だから、「既存の業務の延長線上でできるもの」から始めるのが鉄則です。
第1候補:MAS監査(ライト版)
月次面談の中に経営の話題を組み込むだけなので、新しい時間枠を作る必要がない。月3万円のライトプランから始めて、慣れてきたら5万円のスタンダードに移行する。
第2候補:資金調達支援
顧問先から「融資を受けたい」と相談されたときに、事業計画書の作成を手伝うだけ。発生ベースなので、常時の時間拘束がない。
「承継もやりたいんですが、正直、株価評価の実務経験が少なくて不安で。」
この不安は正直なものです。承継支援は専門知識の幅が広く、1人で全部カバーするのは大変です。1人事務所の場合は、まずMAS監査で「経営支援の筋力」をつけてから、承継に展開するのが現実的です。
5人規模の事務所(所長+スタッフ4名程度)
5人規模になると、所長以外のスタッフにも業務を任せられるようになります。ここでのポイントは、「所長が経営支援に集中する時間を確保できるかどうか」です。
第1候補:MAS監査(スタンダード)
月5万円で、月1回60分の経営ミーティング。所長が直接担当する。5社で月25万円の追加売上。
第2候補:事業承継支援
顧問先に60歳以上の社長がいれば、ニーズは確実にある。株価評価はスタッフに計算を任せ、社長との面談は所長が行う分業体制が取れる。
第3候補:経営計画策定
金融機関からの融資条件として経営計画を求められるケースが増えている。顧問先のニーズに応える形で自然に始められる。
10人以上の事務所
10人以上の事務所であれば、「経営支援部門」として独立したチームを作ることが可能です。
戦略:複数メニューの同時展開
MAS監査を軸にしながら、承継支援と経営計画策定を並行して進める。担当者を分けて、それぞれの専門性を高める。
ただし、一気にすべてを始めるのではなく、四半期ごとに1メニューずつ追加するのが安全です。第1四半期でMAS監査を立ち上げ、第2四半期で承継支援を追加、第3四半期で経営計画策定を加える、というペースです。
顧問先の特性別:おすすめメニュー
事務所の規模だけでなく、顧問先の特性によっても最適なメニューは変わります。
製造業が中心の事務所
製造業の社長は「数字に強い」タイプが多い傾向があります。原価管理、在庫管理、生産性の話が通じやすい。
おすすめ:MAS監査。製造原価の分析、粗利率の改善、設備投資の判断支援など、数字ベースの経営支援が刺さりやすいです。
サービス業が中心の事務所
サービス業は人件費比率が高く、「人の問題」が経営課題の中心になりがちです。
おすすめ:MAS監査 + 人事制度構築。人件費率の管理から入り、「ではどういう評価制度にすれば、優秀な人が残るか」という話に展開できます。ただし人事制度構築は難易度が高いので、外部の社労士と連携する選択肢も検討してください。
高齢社長が多い事務所
顧問先の社長の平均年齢が65歳以上であれば、承継ニーズは非常に高い。しかも、今後5年以内に動かなければならない案件がほとんどです。
おすすめ:事業承継支援。この特性の事務所であれば、承継支援を最優先にすべきです。株価評価を入り口に、承継計画の策定、そして実行支援へ。詳しくは事業承継の話を社長に切り出すタイミングと具体的な話し方をご参照ください。
成長企業が多い事務所
年商が伸びている会社、従業員を増やしている会社が多い場合。
おすすめ:経営計画策定 + 資金調達支援。成長企業は常に資金が必要です。「成長するための経営計画を作って、それを元に融資を引く」という一連のサービスは、社長にとって非常にわかりやすい価値です。
顧問先特性と推奨メニューの対応表
| 顧問先の特性 | 第1推奨 | 第2推奨 |
|---|---|---|
| 製造業中心 | MAS監査 | 経営計画策定 |
| サービス業中心 | MAS監査 | 人事制度構築 |
| 高齢社長が多い | 事業承継支援 | MAS監査 |
| 成長企業が多い | 経営計画策定 | 資金調達支援 |
| 小規模企業中心 | MAS監査(ライト) | 資金調達支援 |
始めやすさランキング
「理屈はわかったけど、結局どれが一番始めやすいの?」という声に答えます。
| 順位 | メニュー | 始めやすさの理由 |
|---|---|---|
| 1位 | MAS監査(ライト版) | 月次面談の延長で始められる。新しいスキルが最小限で済む |
| 2位 | 資金調達支援 | 顧問先から相談があったときだけ対応すればよい。発生ベース |
| 3位 | 経営計画策定 | フォーマットを用意すれば、社長と一緒に埋めていく形で進められる |
| 4位 | 事業承継支援 | 税務知識を活かせるが、相続・株価評価の実務経験が必要 |
| 5位 | 人事制度構築 | 専門知識が必要。社労士との連携が前提になることが多い |
圧倒的に始めやすいのは、MAS監査のライト版です。なぜなら、「月次面談で、今まで報告していた数字を、もう少し深く分析して見せる」だけで始められるからです。新しい専門知識を大量に勉強する必要もない。新しい時間枠を作る必要もない。今ある業務に、ほんの少し「深さ」を加えるだけです。
「全部やらなくていい」という安心感
ここで、1つ大事なことをお伝えします。
6つのメニューを全部やる必要はありません。あなたの事務所に合った1つか2つを選んで、それを深く、丁寧にやる。それで十分です。
私はコンサルタントとして200社以上を支援してきましたが、「すべてのサービスを提供している」わけではありません。私の専門は経営計画策定と事業承継です。人事制度構築は、信頼できる社労士に紹介します。保険は保険の専門家に任せます。
「自分がやるべきこと」と「専門家に任せること」を分けることも、経営支援の一部です。
すべてを自分でやろうとすると、どれも中途半端になります。1つのメニューで確実に成果を出して、社長からの信頼を得る。その信頼を土台に、次のメニューを追加する。これが最も持続可能な成長パターンです。
各メニューの詳細を知りたい方へ
この記事では全体像と選び方をお伝えしました。各メニューの具体的な進め方については、以下の記事で詳しく解説しています。
- MAS監査の提案方法 → MAS監査を顧問先に提案する具体的な切り出し方
- MAS監査の収益モデル → 経営支援で顧問料を月5万円上げた税理士の収益モデル
- 事業承継の始め方 → 事業承継の話を社長に切り出すタイミングと具体的な話し方
- 顧問先深耕の全体戦略 → 営業が苦手な税理士のための顧問先深耕術
最後に
経営支援メニューの選び方に、万人共通の正解はありません。でも、万人共通の「始め方」はあります。
自分の事務所の特性を冷静に見つめて、最も始めやすいもの1つを選んで、最も話しやすい社長1人に声をかける。
それだけです。完璧な準備は要りません。完璧なスキルも要りません。「まず1つ、まず1社」。この原則さえ守れば、半年後には「始めてよかった」と思えるはずです。
メニューが決まったら、あとは
「誰に、どう切り出すか」だけです。
私が最初の提案で使っている「社長の状況に合わせた経営支援の切り出し資料」のサンプルを公開しています。業種や社長のタイプに応じてAIが自動生成するものです。
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