MAS監査の相場感

まず、業界の相場を確認しておきましょう。MAS監査の料金は、税理士によってかなり幅があります。

価格帯 月額 サービス内容の目安
ライト 月3万円 月1回の経営数値レビュー、簡単な目標管理
スタンダード 月5万円 月1回の経営ミーティング、KPI管理、アクションプラン策定
プレミアム 月8万〜10万円 月2回のミーティング、経営計画策定、幹部育成支援含む

私の経験では、月5万円がもっとも受け入れられやすい価格帯です。社長にとって「高すぎず、安すぎず」の金額。そして税理士にとっても、労力に見合う報酬です。

ただし、相場を知ることと、値付けができることは別の話です。大切なのは「なぜ5万円なのか」を自分の言葉で説明できることです。

値付けの考え方:時間単価ではなく「価値」で決める

値付けには2つの考え方があります。

考え方A:コスト積み上げ(時間単価方式)

「MAS監査に月5時間かかる。自分の時間単価は1万円。だから月5万円。」

これは一見合理的に見えますが、根本的な問題があります。社長はあなたの時間を買っているのではない。社長は「自分の会社が良くなること」にお金を払っています。

考え方B:価値基準方式

「MAS監査を通じて、社長が得られる価値はどのくらいか」から逆算して料金を決める方法です。

社長への説明例

税理士:「社長、例えば、今の利益率を1ポイント改善できたとします。御社の年商2億円で計算すると、年間200万円の利益増です。その改善を一緒に実現するための支援が月5万円。年間60万円です。200万円の利益改善に対して、投資額は60万円。費用対効果としては十分ではないかと考えています。」

この説明の優れた点は、社長の視点で「損か得か」を判断できる構造になっていることです。「月5万円」と言われると高く感じる社長も、「年間200万円の改善に対して年60万円の投資」と言われれば、合理的に判断できます。

値付けの鉄則

あなたのコストではなく、クライアントが得る価値を起点にする。「この支援がなかったら、社長が失っていたかもしれない利益」を想定し、その一部を料金とする。

成果設計:何を約束し、何を約束しないか

値付けと並んで重要なのが、「成果の設計」です。これは、「MAS監査で何を提供するか」の定義でもあります。

ここで多くの税理士が陥るのが、次の2つの極端です。

パターン 内容 問題
約束しすぎ 「利益を○%改善します」と断言 達成できなかったとき、信頼を失う
曖昧すぎ 「経営のお手伝いをします」 社長が何を得られるかわからない

では、どう設計すればいいのか。私が15年間で辿り着いた答えは、「プロセスを約束し、結果は約束しない」です。

約束するもの(プロセス)

  1. 毎月の経営数値レビュー(前月実績と計画の差異分析)
  2. KPIの設定と進捗管理(社長と一緒に3つ以内のKPIを設定)
  3. 四半期ごとのアクションプラン見直し
  4. 社長との月1回・60分の経営ミーティング

約束しないもの(結果)

社長への説明例

税理士:「社長、MAS監査で私がお約束するのは、『毎月、御社の経営数値を一緒に見て、課題を整理し、アクションプランを考える場を作ること』です。利益が何%上がるとは約束できません。でも、毎月数字を見て、課題を把握して、手を打っていけば、何もしないより良い結果になる。これだけは確信しています。」

社長:「まあ、それはそうだろうな。」

税理士:「はい。そして、もし3ヶ月やってみて『意味がない』と感じたら、遠慮なくおっしゃってください。やめていただいて構いません。」

最後の「やめていただいて構いません」は、非常に重要です。退出オプションがあるから、社長は「試してみよう」と思える。縛りがある契約は、最初の一歩を重くします。

具体的な収益モデル

ここからは、MAS監査を導入した場合の収益モデルを、3つのパターンで見ていきます。

パターン1:1人事務所、顧問先15社

現状 MAS3社導入後
税務顧問 月45万円(15社×3万円) 月45万円
MAS監査 -- 月15万円(3社×5万円)
月間合計 月45万円 月60万円
年間合計 540万円 720万円
年間増収 -- +180万円

パターン2:5人事務所、顧問先50社

現状 MAS10社導入後
税務顧問 月175万円(50社×3.5万円) 月175万円
MAS監査 -- 月50万円(10社×5万円)
月間合計 月175万円 月225万円
年間合計 2,100万円 2,700万円
年間増収 -- +600万円

パターン3:MAS + 承継 + スポットの複合モデル

MAS監査だけでなく、承継支援やスポットの経営計画策定も組み合わせた場合のモデルです。

サービス 単価 件数 年間売上
MAS監査(月額) 月5万円 5社 300万円
承継支援(月額) 月3万円 3社 108万円
経営計画策定(スポット) 30万円/件 年3件 90万円
経営支援合計 498万円

税務顧問の売上にプラスして、年間約500万円の追加売上。これは決して非現実的な数字ではありません。むしろ、着実に深耕を進めれば、2〜3年で到達可能な水準です。

よくある値付けの失敗3パターン

ここからは、失敗パターンもお伝えします。これは私が実際に見てきたケースです。

失敗1:安くしすぎて疲弊する

「最初だから月1万円で」「お試し価格で月2万円で」と安く始めてしまい、労力に見合わなくなるパターンです。月1万円のMAS監査に毎月5時間かけていたら、時間単価は2,000円です。これではモチベーションが持ちません。

無料のお試し期間を設けるのはOKです。でもお試し期間を終えたら、正規料金で提供してください。「安い料金で長く続ける」より「適正料金で質を保つ」ほうが、社長にとっても良いサービスになります。

失敗2:内容を決めずに始める

「とりあえず経営支援をやります」と始めて、毎月何をすればいいかわからなくなるパターンです。社長も「で、今日は何をやるの?」となり、気まずい空気が流れます。

先ほどの「成果設計」で説明した4つのプロセス(数値レビュー、KPI管理、アクションプラン見直し、経営ミーティング)を、最低限の骨格として決めてから始めてください。

失敗3:成果を約束してしまう

「利益を20%改善します」「売上を1.5倍にします」と約束してしまい、達成できずに信頼を失うパターンです。コンサルタントでもこの失敗をする人はいます。経営の結果は、外部環境や社長の行動力など、税理士がコントロールできない要素に大きく左右されます。

約束するのは「プロセスの質と量」。結果は「一緒に目指すもの」。この線引きを、最初にはっきり社長と共有してください。

成果が出ないときの対処法

正直に言います。MAS監査を導入しても、すぐに目に見える成果が出ないケースはあります。3ヶ月経っても利益率は変わらない。売上も横ばい。社長が「本当に意味があるのかな」と感じ始める。

こういうとき、どうするか。

対処法

「成果が出ていない」のではなく「成果が見えていない」可能性を、一緒に検証する。

具体的には、こう話します。

成果が見えないときのトーク例

税理士:「社長、率直にお聞きします。この3ヶ月のMAS監査、効果を感じていらっしゃいますか。」

社長:「うーん、正直、数字にはまだ出てないかな。」

税理士:「ありがとうございます。数字に出るまでには通常6ヶ月から1年かかります。ただ、この3ヶ月で変わったことが1つあると思います。毎月、経営数値を一緒に見るようになって、社長の中で『どの数字を見ればいいか』がクリアになっていませんか。」

社長:「それは確かにそうだな。前は漠然と見てたけど、今は粗利率をまず見るようになったよ。」

税理士:「その変化が、半年後に数字として表れてきます。もう3ヶ月、続けてみませんか。それでも変化がなければ、やり方を変えましょう。」

このやり取りのポイントは、社長自身に「変化」を言語化してもらうことです。税理士が「成果は出ています」と言っても説得力がない。社長が自分で「確かに変わった」と感じることが大切です。

それでも社長が「やめたい」と言ったら。そのときは潔くやめてください。無理に続けても、お互いにとって良い結果にはなりません。ただし、「税務顧問としての関係は変わりませんので」と一言添えることを忘れないでください。

まとめ:値付けは「哲学」である

値付けはテクニックではありません。「自分のサービスにどれだけの価値があると信じるか」という哲学の問題です。

月5万円という金額に自信が持てないなら、まず1社で無料のお試しをして、社長に「これに月5万円の価値があると思いますか」と聞いてみてください。社長の答えが、あなたの自信の根拠になります。

そして、いつか「月5万円では安すぎるかもしれない」と思える日が来たら。それは、あなたのサービスの質が上がった証拠です。そのときは、堂々と値上げしてください。

戸川 誠一(とがわ せいいち)

独立系経営コンサルタント。大手メーカーの経営企画部を経て独立。15年間で200社以上の中小企業の経営支援に携わる。専門は経営計画策定・事業承継・組織改革。

収益モデルを描いたら、次は
「最初の1社にどう提案するか」です。

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