面談「前」にやること:決算書で見るべき3つの数字
来週、顧問先の社長に会う前に、直近2期分の決算書を開いてください。見るのは3つの数字だけです。
| 見る数字 | 見方 | なぜこの数字か |
|---|---|---|
| 1. 売上総利益率(粗利率) | 前期と今期を比較する | 社長が最も肌感覚で理解できる数字。「儲かっている感覚」と直結している |
| 2. 人件費率 | 人件費 ÷ 売上高で計算 | 中小企業の社長が最も悩む「人」の問題と直結する数字 |
| 3. 営業利益の増減額 | 前期比で増えたか減ったか | 「なぜ増えた(減った)のか」という問いが、経営の話の入口になる |
3つとも見る必要はありません。この中で「前期と今期で変化があった数字」を1つ見つける。それだけが、面談前の準備です。
社長は「数字そのもの」には興味がありません。でも「変わった数字」には反応します。「なぜ変わったのか」を社長自身が考えたくなる。それが経営の対話の入口になります。
具体的にどう見るか:15分の手順
- 前期と今期の損益計算書を横に並べる(紙でもExcelでも画面でもいい)
- 売上総利益率を計算する(売上総利益 ÷ 売上高 × 100)。前期と今期で1ポイント以上差があれば、メモする
- 人件費率を計算する(人件費 ÷ 売上高 × 100)。同じく差があればメモ
- 営業利益の増減を見る。100万円以上の変動があれば、その原因を販管費の内訳から探す
- 1つだけ、面談で聞きたい質問を決める
これで15分。コーヒー1杯分の時間です。
面談「中」にやること:3つの質問リスト
面談で使う質問は3つ。順番が大切です。
質問1:「事実確認」の質問
税理士:「社長、今期の決算を見ていたんですが、粗利率が前期の38%から34%に下がっていました。何か心当たりはありますか?」
これは「答え」を伝える質問ではありません。「事実」を共有して、社長の認識を確認する質問です。
ここでの社長の反応は、だいたい3パターンです。
| 社長の反応 | 意味 | あなたがやること |
|---|---|---|
| 「ああ、それはね……」と理由を話す | 社長は原因を把握している | その話を深掘りする(質問2へ) |
| 「えっ、そんなに下がってたの?」と驚く | 社長が気づいていなかった | 一緒に原因を探る(質問2へ) |
| 「まあ、いろいろあってね……」と曖昧に答える | 原因はわかっているが話したくない、または整理できていない | 深追いせず、質問3に進む |
どの反応が来ても大丈夫です。「正しい答え」を引き出す必要はありません。社長が「この先生はうちの数字をちゃんと見ているな」と感じてくれれば、この質問は成功です。
質問2:「未来」の質問
税理士:「なるほど、材料費が上がっていたんですね。社長の感覚として、この上昇は来期も続きそうですか?」
ここがポイントです。「過去の数字」を「未来の経営判断」に接続する質問。この質問をした瞬間、あなたの立場は「税務の報告をする人」から「経営を一緒に考える人」に変わります。
社長は「来期も続きそうか」を聞かれると、自然に経営の話を始めます。「仕入先を変えようと思っている」「値上げを検討している」「このまま行くと利益が出ない」。あなたが意見を言う必要はありません。社長が自分で考え始めます。
質問3:「困りごと」の質問
税理士:「ちなみに社長、最近の経営で一番気になっていることって、どんなことですか?」
この質問は、数字とは関係なく使えます。質問1と2の流れで聞いてもいいし、話が途切れたタイミングで聞いてもいい。
この質問が効く理由は、「提案が断られる3つの原因」の記事で詳しく書きましたが、社長の悩みに接続することで初めて提案が刺さるからです。今回は提案する必要はありません。聞くだけ。聞いてメモするだけです。
質問1で「数字を見ている」と示す。質問2で「未来を一緒に考える」姿勢を見せる。質問3で「社長の悩みを受け取る」。この3ステップで、あなたの「前提認識」が書き換わり始めます。
面談「後」にやること:5分のメモ
面談が終わったら、車に乗る前に5分だけメモを取ってください。書くのは3つだけです。
- 社長が話した内容の要約(3行以内でいい)
- 社長が気にしていたこと(キーワードだけでいい)
- 次回の面談で触れること(1つだけ決める)
なぜこのメモが重要か。次回の面談で「前回、社長が材料費のことを気にされていたので、ちょっと調べてみました」と言えるからです。
税理士:「社長、前回おっしゃっていた材料費の件ですが、同業の顧問先と比べると、御社の材料費率は約3ポイント高いです。もし興味があれば、どこに差があるのか一緒に見てみましょうか。」
この「前回の話を覚えている」という行為は、社長にとって想像以上に大きいです。「この先生は、本当にうちのことを考えてくれている」。この信頼の蓄積が、経営支援への自然な流れを作ります。
やってはいけないこと:3つのNG行動
行動リストを示したので、逆に「やってはいけないこと」も明確にしておきます。
| NG行動 | なぜダメか | 代わりにやること |
|---|---|---|
| いきなり「経営計画を作りましょう」と提案する | 社長の頭に「前提」ができていない段階で大きな提案をすると断られる | まず質問から入る。提案は3回目以降の面談で |
| 同業他社の数字を上から目線で伝える | 「うちのことを何も知らないくせに」と反発される | 「参考データとしてお持ちしました」という姿勢で |
| 1回の面談で全部やろうとする | 消化不良になり、社長が「面倒くさい」と感じる | 1回の面談で新しいことは1つだけ |
「経営支援」の定義を変える
ここまで読んで気づいた方もいるかもしれません。この記事で書いた「経営支援の第一歩」は、特別なことを何1つしていません。
- 決算書を15分余分に見る
- 変化した数字について質問する
- 社長の悩みを聞く
- 5分のメモを取る
これだけです。でも、これが経営支援の本質です。
私は15年間、経営コンサルタントをやってきましたが、正直に言うと、やっていることの8割は「聞くこと」です。経営計画を作るのも、事業承継を支援するのも、最初はすべて「社長の話を聞く」ところから始まります。
経営支援とは「経営のアドバイスをすること」ではありません。「社長が自分の会社を客観的に見るための鏡になること」です。数字という鏡を見せ、質問を投げかけ、社長自身が考える機会を作る。それが経営支援の本質であり、税理士にしかできない支援の形です。
来週の面談チェックリスト
最後に、来週の面談で使えるチェックリストをまとめます。
| タイミング | やること | 所要時間 |
|---|---|---|
| 面談前日 | 直近2期の決算書を開き、粗利率・人件費率・営業利益の変化を確認。1つだけ質問を準備する | 15分 |
| 面談中 | 質問1(事実確認)→ 質問2(未来の話)→ 質問3(困りごと)の順で聞く | 10〜15分 |
| 面談後 | 社長の話の要約、気にしていたキーワード、次回触れることの3つをメモ | 5分 |
合計30〜35分の追加時間。これが、経営支援を始めるための「最初の1歩」です。
大事なのは、完璧にやることではありません。「来週、1社だけやってみる」こと。1社やれば感覚がつかめます。感覚がつかめれば、2社目は自然にできます。その積み重ねが、半年後には「経営支援もやっている税理士」というポジションを作ります。
心理面でまだ不安がある方は、「社長に経営の話をするのが怖い」を克服する思考法もあわせて読んでみてください。行動の不安が減ると思います。
最初の1歩は、いきなり社長に話すことではなく
「準備」から始まります。
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