「怖い」の正体は、能力不足ではない

まず、はっきり言っておきたいことがあります。

あなたが「怖い」と感じるのは、あなたの能力が不足しているからではありません。

むしろ逆です。能力がある人ほど、この怖さを感じます。なぜなら、「経営のことを語るからには、ちゃんとしたことを言わなければならない」と思っているからです。いい加減な人は怖がりません。

では、この「怖さ」はどこから来ているのか。3つの構造があります。

構造1:「専門外に踏み込む」という錯覚

税理士の多くは、自分の専門を「税務・会計」と定義しています。だから「経営の話」をしようとすると、「自分の専門外に踏み込んでいる」と感じる。これが最初の壁です。

でも、冷静に考えてみてください。

あなたは毎月、その会社の数字を見ています。売上、利益、人件費、借入金、資金繰り。これらは全部「経営の数字」です。あなたはすでに、その会社の経営に最も深く触れている外部の人間です。

税務の話と経営の話の間に、明確な境界線はありません。「今期の利益が減りましたね」は税務の話。「なぜ利益が減ったのか」は経営の話。この2つの間にあるのは、壁ではなく階段の1段目です。

考え方の転換

「経営の専門家になる」のではなく、「すでに持っている数字の読みを、もう一段深くする」だけ。新しい領域に飛び込むのではなく、今いる場所から1歩だけ前に出る。

構造2:「社長のほうが経営を知っている」という思い込み

これは、私が税理士の方と話していて最もよく聞く言葉です。

よくある声

「社長は30年も経営をやっている人ですよ。私が経営について何か言えることなんて、ないですよ。」

気持ちはわかります。でも、これは事実ではありません。

社長が知っているのは、「自分の会社の経営」です。しかも、社長の視点は「中から見た景色」です。毎日現場にいるからこそ、見えなくなっているものがあります。

一方、あなたが持っているのは「外から見た数字」です。しかも、複数の会社の数字を見ている。これは社長にはない視点です。

社長 税理士
自社の経営実感 非常に深い 限定的
自社の数字の客観的把握 意外と曖昧 正確に把握
同業他社との比較 ほぼ見えない 複数社を知っている
業界全体の数値傾向 肌感覚のみ データで把握可能

社長が「うちの営業利益率は3%です」と聞いても、それが良いのか悪いのかわかりません。でもあなたが「同業・同規模の平均は5.2%です」と言えば、社長の見え方は一変します。

あなたが社長に提供できるのは「経営の答え」ではない。「自社を客観的に見るための視点」です。これは社長1人では絶対に手に入らないものです。

構造3:「失敗したら関係が壊れる」という恐怖

3つ目の壁は、最も根深い。「もし的外れなことを言って、社長に『先生、わかってないね』と思われたら、税務顧問としての信頼まで失うのではないか」という恐怖です。

これは理解できます。税務顧問の関係は、何年もかけて築いたものです。それを壊すリスクを取りたくない。当然の感覚です。

ただ、ここに1つの事実があります。

200社の社長と話してわかったこと

社長は、「的外れなことを言った人」を嫌いにはなりません。「自分の会社に興味を持ってくれない人」に失望します。

私が15年間で出会った社長の中で、「経営の話をされて怒った」人は1人もいません。むしろ、「うちの会社のことを真剣に考えてくれている」と受け取ってくれました。たとえ的外れでも。

社長が嫌がるのは、的外れな意見ではなく、「毎月来ているのに、税金の話しかしない」ことです。社長はこう思っています。

社長の本音(多くの社長がこう言います)

「先生は毎月うちに来てくれてるんだけど、正直、数字を持ってきて説明してくれるだけなんだよね。もう少し、うちの経営について一緒に考えてくれたらいいのにって思うことはあるよ。」

つまり、あなたが「怖い」と思って踏み出せないでいる間、社長はあなたに「踏み込んでほしい」と思っている可能性が高い。

「怖い」を消す必要はない。「怖いままやる」方法がある

ここまで3つの構造を説明しましたが、「だから怖がらなくていい」と言うつもりはありません。構造を理解しても、感情はすぐには変わらないからです。

私がお勧めするのは、「怖くない行動」から始めることです。

段階1:質問する(今日からできる)

経営の話を「する」のではなく「聞く」。これなら怖くありません。

使える質問

「社長、最近の経営で、一番気になっていることって何ですか?」

この1つの質問で十分です。社長の答えを聞く。メモを取る。それだけ。意見を言う必要はありません。

段階2:数字を見せる(来月からできる)

次回の面談で、「前回お聞きした悩みに関連する数字」を1つ持っていく。

具体例

「前回、社長が『人が来ない』とおっしゃっていたので、御社の人件費率を調べてみました。同業他社と比べると、こういう差があります。」

自分の意見を言うのではなく、「数字を見せる」だけ。数字は客観的事実なので、的外れになりようがありません。

段階3:一緒に考える(3ヶ月後にできる)

段階1と2を数回繰り返すと、社長の中であなたの「前提認識」が変わり始めます。「この先生は、うちの経営にも目を配ってくれる人だ」と。そうなったら、自然に「じゃあ、一度ちゃんと整理してみましょうか」という流れが生まれます。

まとめ

「怖い」を克服するのではなく、「怖くない行動」を積み重ねることで、いつの間にか「怖くなくなっている」状態を作る。これが最も現実的な方法です。

最後に正直に言うと

私はコンサルタントなので、「経営の話をするのが怖い」という感覚は、正直なところ完全には理解できていないかもしれません。最初からそれが仕事だったからです。

ただ、200社以上の社長と話してきて確信していることが1つあります。社長は、自分の会社に真剣に向き合ってくれる人を求めている。それは経営コンサルタントである必要はない。毎月会って、数字を知っていて、会社の内側まで見えている税理士。その立場は、コンサルタントよりずっと強い。

あなたが怖いと感じるその一歩は、社長が待っている一歩でもあります。

戸川 誠一(とがわ せいいち)

独立系経営コンサルタント。大手メーカーの経営企画部を経て独立。15年間で200社以上の中小企業の経営支援に携わる。専門は経営計画策定・事業承継・組織改革。

「怖い」を乗り越えた先に必要なのは、
気持ちではなく"準備"です。

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