その前に:なぜ「質問」なのか

経営支援というと「アドバイスをする」「提案をする」と思いがちです。でも、これは最初の段階では逆効果です。

なぜか。提案が断られる原因の記事で書いた通り、社長はあなたを「税務の人」として見ています。その前提が変わらないまま経営のアドバイスをしても、刺さりません。

質問は、この前提を壊す最も自然な手段です。質問するとき、あなたは「教える人」ではなく「一緒に考える人」になります。社長はアドバイスされると構えますが、質問されると考え始めます。社長が自分で考え始めた瞬間に、月次面談は「経営支援の場」に変わります。

質問1:「この数字、社長の感覚と合っていますか?」

なぜこの質問が効くか

月次の数字を報告するとき、多くの税理士は「売上は前月比で5%減です」と事実だけを伝えます。社長は「ああ、そうですか」と言って終わり。

でも「この数字、社長の感覚と合っていますか?」と聞くと、社長は「感覚」と「数字」を突き合わせ始めます。「もっと悪いと思っていた」「いや、もう少し良いはずなんだけどな」。ここから対話が生まれます。

実際のトーク例

税理士:「社長、今月の粗利率が32.5%でした。先月が35.1%だったので少し下がっていますが、社長の感覚としてはいかがですか?」

社長:「うーん、そんなに下がってるか。今月は大型案件が1つあって、利益率が低い仕事だったからかな。」

税理士:「なるほど。大型案件の影響ですか。ちなみにその案件、受けた判断としてはどうでしたか?」

社長:「正直、利益は薄いけど、あそこから仕事をもらい続けるためには必要な案件なんだよ。」

この会話の中で、社長は「利益率の低い大型案件をなぜ受けるか」という経営判断を自分で説明しています。税理士は何も提案していません。質問しただけです。でも、これはもう立派な「経営の対話」です。

社長がどう反応するか

質問2:「この先3ヶ月、一番気になっていることは何ですか?」

なぜこの質問が効くか

「最近どうですか」は社交辞令。でも「この先3ヶ月」と期間を区切ると、社長の思考が具体的になります。「来月の資金繰り」「4月の人事異動」「夏の繁忙期」など、具体的な悩みが出てきます。

3ヶ月という期間がポイントです。「来月」だと短すぎて日常業務の話になり、「1年後」だと長すぎて漠然とした話になります。3ヶ月が、社長にとって最もリアルに考えられる「未来」です。

実際のトーク例

税理士:「社長、この先3ヶ月くらいで一番気になっていることってありますか?」

社長:「実は6月に主力の営業マンが1人辞めるんだよ。後任をどうするかが決まっていなくて。」

税理士:「それは大きいですね。その方の売上はどのくらいの規模ですか?」

社長:「年間で3,000万くらいかな。」

税理士:「3,000万ですか。もし後任が見つからなかった場合、その売上は既存の方で分散できそうですか?」

この質問で、社長の頭の中にある「言語化されていない不安」が、具体的な数字と選択肢に変わります。あなたは解決策を提示していません。でも、社長は「先生に話したら頭が整理された」と感じます。

次にどう展開するか

社長の答えをメモして、次回の面談で「前回おっしゃっていた件、その後どうなりましたか?」と聞く。これだけで「継続して経営を一緒に考えている」関係が成立します。

質問3:「御社で一番利益率が高い仕事は、どれですか?」

なぜこの質問が効くか

驚くかもしれませんが、この質問に即答できる社長は少数派です。「売上が大きい仕事」は把握しているのに、「利益率が高い仕事」はわかっていない。中小企業ではよくある話です。

この質問は、社長に「利益の構造」を考えさせます。そして、あなたが持っている月次データが、その答えを出せるポジションにいる。ここに税理士の強みがあります。

実際のトーク例

税理士:「社長、御社の中で一番利益率が高い仕事って、どれだと思いますか?」

社長:「うーん……A社向けの仕事かな。単価が高いから。」

税理士:「そう思いますよね。ただ、月次の数字を見ていると、実はB社向けの仕事のほうが利益率が高い可能性があるんです。外注費がかかっていない分、手残りが大きいんですね。もしよければ、次回までに取引先別の利益率を一覧にしてみましょうか。」

社長:「え、それは見てみたいな。」

この展開の何がすごいか。社長は「税理士に経営のデータ分析を依頼した」ということになります。しかも、あなたが押し売りしたのではなく、社長が「見てみたい」と自分で言った。これが、経営支援が自然に始まる瞬間です。

質問4:「社長が今一番時間を使っていることは何ですか?」

なぜこの質問が効くか

中小企業の社長は、経営に集中できていないことが多い。営業に走り回っていたり、現場のトラブル対応に追われていたり。「本当はやりたいこと」と「実際に時間を使っていること」にズレがある。

この質問は、そのズレを社長自身に気づかせます。

実際のトーク例

税理士:「社長は最近、一番時間を使っていることって何ですか?」

社長:「クレーム対応かな。先月から立て続けに3件来て、全部私が対応してる。」

税理士:「社長自ら対応されているんですね。その時間、月にどのくらいですか?」

社長:「週に10時間くらいは取られてるかも。」

税理士:「月40時間ですか。社長の時間を時給換算すると、なかなかの金額ですね。クレーム対応を任せられる人はいないですか?」

社長:「……いないんだよ。だから困ってる。」

この会話で見えてくるのは「人材育成」や「組織体制」の課題です。社長は「クレーム対応が大変だ」と思っていたのが、「人を育てなければいけない」という本質的な経営課題に変わります。

社長がどう反応するか

ほとんどの社長は、この質問に対して「本来やるべきでないことに時間を取られている」と答えます。そのこと自体を社長は自覚しています。でも、誰にも言えない。税理士に聞かれて初めて「実はね……」と話し始めます。

質問5:「来期、数字で1つだけ変えるとしたら何を変えたいですか?」

なぜこの質問が効くか

「1つだけ」がポイントです。「来期の目標は?」と聞くと、社長は身構えます。経営計画を作らなければいけない雰囲気になるからです。でも「1つだけ変えるとしたら」と聞くと、社長は気軽に答えられます。

そして、この質問の答えが出た瞬間、それは実質的に「経営目標」です。あなたが「経営計画を作りましょう」と提案する必要はない。社長が自分で目標を言った。あとは、その目標に向けて数字を追いかける仕組みを一緒に作ればいい。

実際のトーク例

税理士:「社長、来期の数字で1つだけ変えるとしたら、何を変えたいですか?」

社長:「やっぱり粗利率かな。今の34%を37%まで上げたい。」

税理士:「3ポイントの改善ですね。今の売上規模だと、営業利益ベースで約450万円のインパクトですね。」

社長:「そんなにあるの?」

税理士:「はい。もしよかったら、来月の面談で『粗利率を37%にするために何が必要か』を一緒に考えてみませんか。取引先ごとの利益率を見れば、どこから手をつけるかが見えてくると思います。」

社長:「ぜひお願いしたい。」

この会話の流れ、何が起きているか気づきましたか。社長が自分で経営目標を設定し、自分でその実現に向けた支援を依頼した。これが、月次面談が経営支援の場に変わった瞬間です。

5つの質問の使い方:全部使わなくていい

大事なことを言います。5つの質問を1回の面談で全部使う必要はありません。むしろ、全部使わないでください。消化不良になります。

使い方のルール

1回の面談で使う質問は1つだけ。残りの質問は、次回以降の面談で順番に使っていく。5回の面談で5つの質問を使えば、5ヶ月後にはその社長との関係が根本的に変わっています。

面談回 使う質問 目的
1回目 質問1(感覚との一致) 「数字を見ている先生」という印象を作る
2回目 質問2(3ヶ月の不安) 社長の悩みを把握する
3回目 質問3(利益率の高い仕事) 経営データの分析に踏み込む
4回目 質問4(時間の使い方) 経営課題の本質を一緒に探る
5回目 質問5(来期変えたい数字) 経営目標を一緒に作る

この5ヶ月の間に、社長のあなたに対する認識は「税務の先生」から「経営を一緒に考えてくれる先生」に変わっています。変えようとしたのではなく、質問を重ねた結果、自然に変わります。

正直に言うと、失敗することもある

ここまで書いておいて言いにくいのですが、正直に書きます。質問がうまく機能しないこともあります。

社長が「忙しいから今日は早く終わらせて」と言うとき。社長の気分が乗らないとき。質問のタイミングが悪いとき。そういう日は、無理に質問しないでください。いつも通りの月次報告をして、「また来月」でいい。

質問は武器ではありません。社長との対話を深めるきっかけです。きっかけは、相手の準備ができているときに使うから効果がある。「今日は使えなかった」も、立派な判断です。

完璧にやろうとしないでください。5つの質問のうち、1つでも使えたら、それは大きな前進です。

戸川 誠一(とがわ せいいち)

独立系経営コンサルタント。大手メーカーの経営企画部を経て独立。15年間で200社以上の中小企業の経営支援に携わる。専門は経営計画策定・事業承継・組織改革。

5つの質問を使いこなすには、社長ごとに
「どの質問から入るか」を事前に決めておくことが大切です。

私が面談前の準備に使っている「社長のタイプに合わせた切り出し方の資料」のサンプルを公開しています。業種や社長のタイプに応じてAIが自動生成するものです。

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