原因1:「税務の人」という前提で聞かれている

コンサルタントが社長に会うとき、社長は「経営の相談をする相手」として迎えてくれます。当然です。コンサルタントはそのために来ているのだから。

ところが税理士が社長に会うとき、社長の頭の中は「税金の話」「決算の話」「申告の話」で占められています。その状態でいきなり「社長、経営計画を一緒に作りませんか」と言われたら、どう思うか。

社長の心の声

「え? 先生って税金の専門家だよね? 経営のことはうちのほうがわかってるんだけど……」

これは税理士の能力の問題ではありません。「この人は何の専門家か」という前提認識の問題です。

私がコンサルタントとして提案が通りやすいのは、私の提案力が税理士より優れているからではありません。「経営の話をしに来た人」として最初から認識されているからです。ただそれだけの差です。

この前提をどう変えるか

いきなり「前提を変えよう」としても無理です。社長の中に35年かけて積み上がった「先生=税務の人」という認識は、トーク1つで変わるものではありません。

ではどうするか。「税務の延長線上に、自然と経営の話が乗る」状況を作る。これが最も現実的な方法です。

具体的なトーク例

税理士:「社長、今期の決算を見ていて、1つ気になったことがあるんですが……」

社長:「何ですか?」

税理士:「売上は昨年と同じなんですが、営業利益が180万円減っています。原因を調べたら、材料費と外注費が合計で220万円上がっていました。社長、この上昇分は来期も続きそうですか?」

この会話のどこにも「経営計画」という言葉は出てきません。でも、社長は「この先生は、うちの数字をちゃんと見ているな」と感じます。そして「来期も続きそうですか?」という質問は、自然と経営の話に入っています。

ポイントは「経営支援を提案する」のではなく、「経営の話が始まる質問をする」ということです。

原因2:社長の「今の悩み」に接続されていない

税理士が経営支援を提案するとき、よくこういう言い方をします。

ありがちな提案

「社長、これからの時代は経営計画が大切です。うちの事務所でもMAS監査というサービスを始めまして……」

この提案が刺さらない理由は明確です。社長の「今、困っていること」に1ミリも触れていない。

社長は毎日、具体的な問題と戦っています。「人が辞めた」「取引先から値下げを要求された」「資金繰りが厳しい月がある」「後継者の問題をどうするか」。こういった具体的な悩みを抱えている人に、「経営計画は大切です」と言っても響きません。

私がコンサルタントとして社長に提案するとき、必ずやることが1つあります。

鉄則

提案の前に、社長が「今、一番気になっていること」を必ず聞く。そして、提案はその悩みへの回答として行う。

例えば、社長が「最近、若い人が全然来なくて困っている」と言ったとします。

悩みに接続した提案例

税理士:「社長がおっしゃる『若い人が来ない』という問題、実は御社の決算数字を見ると構造的な原因が見えてきます。」

社長:「え? 決算からそんなことがわかるの?」

税理士:「はい。御社の人件費率と同業他社の平均を比べると、賃金水準で約15%の差があります。人が来ない原因の1つは、この差にある可能性があります。ただ、単純に給料を上げればいいという話ではなくて、利益率との兼ね合いで『上げられる余力がどこにあるか』を一緒に見てみませんか。」

この提案は「MAS監査を始めました」とは一言も言っていません。でも、社長は「この先生と一緒に自社の構造を見てみたい」と思い始めています。

提案が刺さるかどうかは、「提案の質」ではなく「社長の悩みとの接続距離」で決まります。

原因3:「次に何が起きるか」が見えない

仮に社長が「面白そうだな」と思っても、こう考えます。

社長の心の声

「で、具体的に何をやるの? どのくらい時間がかかるの? いくらかかるの? 結局、何が手に入るの?」

ここで答えが曖昧だと、社長の興味は急速に冷めます。社長は忙しい。よくわからないものに時間を使う余裕はありません。

でも逆に、「まずは経営計画書を作成します。月2回の面談で、6ヶ月間かけて……」と詳細に説明し始めると、「重いな……」と引かれます。

ではどうするか。

正解は「最初の一歩だけ」を提示すること

いきなり全体像を見せるのではなく、「まずこれだけやりましょう。それで見えてきたことを元に、次を考えましょう」と提案する。

具体的なトーク例

税理士:「社長、まず1つだけお願いがあります。来月の面談までに、御社の取引先ごとの売上と利益率を1枚の表にまとめてきてもらえますか。30分もあればできると思います。」

社長:「それくらいなら、できるけど。」

税理士:「ありがとうございます。その数字があれば、御社の売上の中で『儲かっている仕事』と『実は赤字の仕事』が見えてきます。それが見えれば、さっきの人件費の問題も、どこから手をつければいいかがわかります。」

この提案は、社長にとってのハードルが極めて低い。「30分で表を1枚作るだけ」。それだけで「見えてくるものがある」と約束している。社長が断る理由がありません。

最初の一歩は、小さければ小さいほどいい。大きな提案は、小さな一歩の積み重ねの先にあるものです。

3つの原因をまとめると

原因 構造 対策
1. 前提の壁 「税務の人」として認識されている 税務データから自然に経営の話を始める
2. 接続の壁 社長の悩みと提案が繋がっていない 悩みを聞いてから、その回答として提案する
3. 行動の壁 次に何をすればいいかわからない 最初の一歩だけを具体的に提示する

この3つの壁は、どれも「提案の中身」の問題ではありません。提案の「前提」と「順番」と「大きさ」の問題です。

つまり、あなたの経営支援の知識や能力が足りないのではない。提案の設計を変えるだけで、社長の反応は変わります。

明日からできること

来週、顧問先の社長に会うときに、1つだけ試してみてください。

  1. 面談の前に、その会社の直近2期の決算書を開く
  2. 「前期と比べて変わった数字」を1つ見つける(売上、利益率、人件費率、何でもいい)
  3. 面談で、その数字について「社長、ここが変わっていたんですが、何かありましたか?」と聞く

それだけです。「経営支援を提案する」必要はありません。この質問をするだけで、社長は「この先生は、うちの数字をちゃんと見ている」と感じます。それが、すべての始まりです。

戸川 誠一(とがわ せいいち)

独立系経営コンサルタント。大手メーカーの経営企画部を経て独立。15年間で200社以上の中小企業の経営支援に携わる。専門は経営計画策定・事業承継・組織改革。

この3つの原因を踏まえて、では実際に
どんな資料を持って面談に臨めばいいのか。

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